先に結論だけ知りたい方へ
退職は、次の職場の条件を確認してから、就業規則の期限より前に院長(病院などでは直属の上司)へ直接、口頭で伝えます。目安は辞める1〜3か月前で、担当の患者さんが多い方は早めがおすすめです。理由は短く前向きに伝え、引き止められても「気持ちは決まっています」と退職日をはっきり伝えましょう。すぐに使える言い方は例文の章にまとめました。
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退職を言い出しにくいのは、あなただけではありません
「院長にどう切り出せばいいか分からない」「担当の患者さんに申し訳ない」「引き止められたら断れないかも」。退職を決めても、伝えるところで足が止まってしまう方は多いと思います。歯科医院は少人数の職場が多く、一人抜けると影響が大きいので、なおさら言いにくいですよね。
日本歯科衛生士会の調査では、仕事を辞めた歯科衛生士の退職理由は、自分の健康(21.6%)、家庭の事情(21.1%)、経営者との人間関係(20.5%)、勤務形態・勤務時間(20.5%)が多くなっています。理由はさまざまですが、伝え方と順番を押さえれば、円満に辞めることはできます。
私も20年以上働くなかで、何度か退職を経験しました。直近の2023年は、内定をもらってから退職日のおよそ2か月前に院長へ伝え、了承を得てからスタッフに話し、患者さんと業務の引き継ぎを進めました。
退職を伝える前に確認すること
伝えてから「知らなかった」とならないように、先に次のことを確認しておきましょう。就業規則は、職場で見られるようになっているはずです。
- 退職の申し出の期限:就業規則に「1か月前まで」などの決まりがあるか
- 雇用の形:期間の定めのない雇用か、契約期間が決まっている雇用か(パートや契約社員は要確認)
- 有給休暇の残りの日数
- 賞与と退職金:支給日や「支給日に在籍していること」などの条件
- 研修費などの取り決め:「途中で辞めたら返す」といった約束をしていないか
- 認定資格の準備:歯周病学会の認定資格などで今の医院の症例が必要なら、辞める前に資料をそろえられるか
- 次の職場の入職日:いつから働くか
研修費の返還などの約束は、内容によっては法律上の問題になることもあります(福島県の労働相談Q&A)。気になるときは、後で紹介する相談窓口で確認してください。
いつ伝える?時期とタイミング
時期は「就業規則の期限」と「引き継ぎに必要な期間」で決める
まず就業規則の期限を守ります。そのうえで、担当している患者さんの人数や、メインテナンスの間隔を考えて決めましょう。3か月ごとに来院する患者さんが多いなら、最後の1回を自分が担当し、次の担当者を紹介できるだけの期間があると安心です。
| 状況 | 伝える時期の目安 |
|---|---|
| 担当の患者さんが少ない、パート | 1か月前ごろ(就業規則の期限が先) |
| 担当の患者さんが多い | 2〜3か月前ごろ |
| 院内の係(滅菌、発注、新人教育など)も持っている | 2〜3か月前ごろ |
法律では、期間の定めのない雇用の場合、退職を申し出てから2週間で雇用契約は終わるとされています(民法第627条)。就業規則で期限を大幅に延ばしたり、院長の許可を退職の条件にしたりする決まりは無効とされています(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。ただ、患者さんと職場のことを考えると、余裕をもって伝えるのがおすすめです。
契約期間が決まっている雇用(有期契約)は、期間の途中で辞めるには、原則として「やむを得ない事由」が必要とされています。1年を超える契約なら、一部の例外を除き、1年が過ぎた後はいつでも退職できます(労働基準法第137条)。パートや契約社員の方は、まず契約書を確認しましょう。
タイミングは「診療後、院長が落ち着いているとき」
- 診療の前や診療中、忙しい日は避ける
- 「お話ししたいことがあるので、診療後に10分ほどお時間をいただけますか」と先に時間をもらう
- ほかのスタッフがいない場所で話す
伝える順番は「院長が最初」
小さな職場ほど、うわさは早く広がります。院長より先に同僚へ話すと、院長が人づてに知ることになり、関係がこじれやすくなります。
| 順番 | 相手 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 院長 | 直接、口頭で。退職の意思と退職日の希望を伝える |
| 2 | チーフ、スタッフ | 院長の了承を得てから。伝える時期は院長と相談する |
| 3 | 患者さん | 医院の方針に合わせる。次の担当者を紹介する |

私が院長に退職の意向を伝えたのは、週の終わりの診療後でした。
実は院長に話す前に、チーフにだけ「これから院長に退職のことをお話しします」と伝えていました。まだ院長には話していないので、ここだけの話にしてほしいとお願いし、その日のうちに院長に伝えています。
チーフとの関係を考えると、チーフがまったく知らないままになるのもよくないと感じたからです。ただ、一般的には院長に最初に伝えるのが基本です。チーフに先に話す場合は、院長に伝えるのと同じ日にするなど、時間を空けないようにしましょう。
退職の伝え方と例文
伝えることは、感謝、退職の意思、退職日の希望、引き継ぎへの協力の4つです。理由は短くて大丈夫です。全部を話す必要はありませんが、うそはつかないようにしましょう。
基本の伝え方
お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。
突然のご報告で申し訳ないのですが、○月末で退職させていただきたいと考えています。
こちらで働かせていただき、たくさんのことを学ばせていただきました。
担当している患者さんの引き継ぎは、責任をもって進めます。

理由別の例文
| 理由 | 伝え方の例 |
|---|---|
| キャリアのため | 歯周治療にもっと深く関わりたいと考え、別の環境で挑戦することにしました。 |
| 家庭の事情 | 家庭の事情で、今の勤務時間で働き続けることが難しくなりました。 |
| 体調 | 体調を整えることを優先したいと考えています。 |
| 通勤 | 引っ越しで通勤に時間がかかるようになり、続けるのが難しくなりました。 |
| 人間関係や待遇 | 自分のやりたい働き方を考えた結果、新しい環境で働くことにしました。 |
人間関係や給与への不満が本当の理由でも、退職の場で不満を並べると、残りの期間が気まずくなりがちです。改善してほしいことを伝えたいときは、退職の話とは分けて、落ち着いた言葉で伝えましょう。
転職先の面接で退職理由を聞かれたときの答え方は「面接でよく聞かれる質問10選」にまとめています。
退職届と退職願の違い
| 退職願 | 退職届 | |
|---|---|---|
| 意味 | 「辞めさせてください」というお願い | 「辞めます」という通知 |
| 取り消し | 院長が承諾するまでは取り消せる | 基本的に取り消せない |
| 使う場面 | まず相談して退職日を決めたいとき | 退職日が決まったあと、または話が進まないとき |
書面を求められたら、医院の書式があればそれを使い、なければ「退職届」として、日付、退職日、名前を書いて院長に渡します。理由は「一身上の都合により」で十分です。
引き止められたときの対応
人手が足りない歯科医院では、引き止められることも少なくありません。気持ちが決まっているなら、感謝を伝えたうえで、意思と退職日を変えずに伝えましょう。

| よくある引き止め | 答え方の例 |
|---|---|
| 「給料を上げるから」 | ありがたいお話ですが、条件ではなく、自分の働き方を考えて決めたことです。 |
| 「人が足りないから、もう少し待って」 | ご迷惑をおかけしてすみません。引き継ぎは最後までしっかり行います。 |
| 「後任が決まるまでいて」 | 退職日までに、引き継ぎの資料をまとめておきます。 |
| 「患者さんが困るよ」 | 担当の患者さんには、次の担当の方を紹介できるように進めます。 |
「後任が見つかるまで」「院長が認めないから」といった理由で、ずっと辞められないわけではありません。期間の定めのない雇用なら、院長が認めないと言っても、申し出から原則2週間で雇用契約は終わるとされています(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。退職日を延ばしてほしいと頼まれたときも、応じるかどうかは自分で決めてかまいません。
私も院長から「もう少し相談してから決めようか」「給与なら、もっと上げられるよ」と引き止められました。それでも自分の中では気持ちが決まっていたので、次のように伝えました。
「大変申し訳ございませんが、意志は固いです。今まで本当によくしていただき、ありがとうございました。最後の日まで、診療と引き継ぎは責任をもって行いますので、よろしくお願いいたします。」
引き止めの言葉に感謝を返しつつ、意思と最後まで務める気持ちを伝えると、話が前に進みやすくなります。
話し合いで解決しないとき、退職を認めてもらえないとき、強い言葉で責められたときは、一人で抱えずに、総合労働相談コーナー(各地の労働局や労働基準監督署)に相談できます。無料で、予約なしでも相談できます。
患者さんと業務の引き継ぎ
歯科衛生士の退職でいちばん大切なのが、担当の患者さんの引き継ぎです。次の担当者が困らないように、次のことをまとめておきましょう。
- 担当している患者さんの一覧と、次回の予約
- 歯周検査の結果や治療の進み具合、次に行う処置
- 持病や服薬、苦手なこと(痛み、器具の音など)、話し方で気をつけていること
- 院内の係(滅菌、物品の発注、器具の管理、新人教育など)の手順
患者さんの情報はカルテや医院のシステムに残し、メモを持ち帰ったり、写真に撮ったりしないようにしましょう。患者さんへの伝え方や、伝える時期は医院によって違うので、院長と相談して決めます。転職先を患者さんに伝えて、一緒に移ってもらうような声かけは、前の医院とのトラブルのもとになります。

担当の患者さんには、次のように伝えました。
「〇月いっぱいで退職することになり、今後は担当が変わります。今までありがとうございました。〇月までは私が診させていただき、それ以降は別の担当者に代わります。これまでの内容はカルテに記載して引き継ぎますので、引き続きご来院ください。」
記念品をくださる方や、一緒に写真を撮ってほしいと言ってくださる方もいました。「今までで一番丁寧に診てもらえた」とお礼の言葉をいただいたときは、本当にうれしかったです。担当が変わっても安心して通ってもらえるように伝えることが、最後の大切な仕事だと感じました。
有給休暇は退職前でも使える
退職が決まっていても、残っている有給休暇は使えます。退職日を過ぎると有給休暇の権利はなくなるので、医院は退職日より後に日をずらすことができず、請求どおりに認めることになるとされています(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。
とはいえ、急に全部使うと引き継ぎが間に合わなくなります。退職を伝えるときに「最後の○日間は有給休暇を使わせてください」と、引き継ぎの予定と合わせて相談しておくとスムーズです。
有給休暇は全部は使いきれず、残っていた分の半分、10日ほどを使いました。有給休暇がたくさん残っている方は、辞めるときにまとめて使おうとせず、日ごろから少しずつ使っておくことをおすすめします。
最終日には、医院のみなさんにお菓子を持っていき、クリーニングしたユニフォームを返しました。特にお世話になったスタッフには、個別にLINEギフトでお菓子を送りました。
最終日と退職後に受け取るもの
| 主なもの | |
|---|---|
| 返すもの | 医院の鍵、名札、ユニフォーム、借りていた本や器具、健康保険の資格確認書など(医院の案内に沿って) |
| 受け取るもの | 源泉徴収票、雇用保険被保険者証、離職票(次の職場が決まっていない方など、必要な場合) |
| 必要なら請求できるもの | 退職証明書(労働基準法第22条) |
最後の給与は、退職した人が請求すれば、7日以内に支払うことになっています(労働基準法第23条)。健康保険や年金の切り替えなど、退職後の手続きは「歯科衛生士の転職の流れと期間」のステップ7にまとめています。
次の職場がまだ決まっていない方へ
辞めてから探すと、焦って決めてしまいがちです。できれば、次の職場の条件を確認してから退職を伝えましょう。私は求人サイトのグッピーで探しました。ほかにも、次のサイトが使えます。
- ジョブメドレー:自分で検索して、気になる医院に応募できます
- ファーストナビ歯科衛生士:担当者に希望を伝えて、面接の調整や条件の確認を手伝ってもらえます
ほかのサイトもくらべたい方は「歯科衛生士の転職サイトの選び方」をご覧ください。
よくある質問
Q. メールやLINEで伝えてもいいですか?
A. 最初は、直接会って口頭で伝えるのがおすすめです。院長がなかなかつかまらないときは、「ご相談したいことがあります」と時間をもらう連絡だけをメッセージで送りましょう。
Q. 賞与をもらってから辞めてもいいですか?
A. 問題ありません。ただ、就業規則で「支給日に在籍していること」などの条件があることが多いので、先に確認しておきましょう。
Q. 体調が悪くて、もう出勤できません。
A. まず受診して、体を休めることを優先してください。退職の話は、体調が落ち着いてから、院長と電話や書面で進めることもできます。困ったときは総合労働相談コーナーにも相談できます。
Q. 退職を伝えた後、気まずくなりませんか?
A. 多少の気まずさは出るかもしれません。引き継ぎを丁寧に進め、最後まで患者さんにきちんと向き合えば、残りの期間も気持ちよく過ごしやすくなります。歯科の世界は意外と狭いので、円満に辞めておくと後々も安心です。
まとめ|院長に直接、感謝と退職日を伝える
- 次の職場の条件を確認してから伝える
- 就業規則の期限より前に。担当の患者さんが多いなら2〜3か月前
- 最初に院長へ、直接、口頭で。理由は短く、うそはつかない
- 引き止められても、感謝を伝えて意思と退職日は変えない
- 患者さんの情報はカルテに残し、持ち出さない
転職の全体の進め方は「歯科衛生士の転職の流れと期間」をご覧ください。
参考にした資料
- 退職、解雇、雇止めなど(厚生労働省「確かめよう労働条件」)
- 年次有給休暇(厚生労働省「確かめよう労働条件」)
- 第10回 歯科衛生士の勤務実態調査 報告書(日本歯科衛生士会)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
【監修・執筆】とうま
日本歯周病学会認定歯科衛生士/歯科臨床麻酔認定歯科衛生士/ホワイトニングコーディネーター
20年以上の臨床経験を基に、日本歯周病学会認定歯科衛生士をはじめとする複数の専門資格を有し、質の高い医療提供を追求している。
予防歯科、歯周治療、ホワイトニング分野を中心に、専門的知識をわかりやすく伝え、患者さんやそのご家族が安心できる情報を発信。

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